ウクライナは2022年2月24日のロシアによる侵略開始以降、外務省により全土がレベル4(退避勧告)に指定され続けています。直近の更新は2026年1月19日付で「継続」、レベルは下がる気配がありません。在ウクライナ日本国大使館はキーウで業務を再開しているものの旅券・各種証明・戸籍国籍届の領事窓口業務は停止中で、現地で書類を作る選択肢は事実上ありません。
このページは「観光でウクライナへ行く」ための記事ではありません。復旧・復興に関わる業務渡航者・在留邦人・その家族、そして侵攻後の日本政府の対応や現地の備えがどうなっているかを把握しておきたい人向けに、外務省と在ウクライナ日本国大使館のデータから整理しています。
Travel Alert 01
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観光目的では行かないでください — 全土レベル4の中身
外務省の危険情報(2026年1月19日継続)はウクライナ全土をこう指定しています。
【危険レベル】●ウクライナ全土 レベル4:退避してください。渡航は止めてください。《継続》
理由はそのまま引用します。
2022年2月24日にロシアがウクライナへの侵略を開始して以降、ウクライナ国内ではロシア軍とウクライナ軍による武力衝突が続いており、ウクライナ軍兵士のみならず、一般市民にも多数の死傷者が出ています。引き続き、ロシア軍による地上作戦、ミサイルやドローン等による攻撃は続いており、今後も被害が継続すると見込まれます。
外務省の4段階のうち最上位がレベル4「退避勧告」で、観光・出張・親族訪問のいずれも前提から外れます。例外的に渡航が認められるのは「ウクライナの復旧・復興に寄与する企業・団体の取組等として、真にやむを得ない事情」がある場合のみで、しかもその場合でも外務省への事前相談が必須です。
やむを得ない渡航は「2週間前までの相談 → 渡航計画提出」が必須
外務省は、復旧・復興目的でキーウ市・周辺地域・リヴィウ州への渡航が必要な場合、次の手続きを公的に要求しています。
ただし、ウクライナの復旧・復興に寄与する企業・団体の取組等として、真にやむを得ない事情でキーウ市及び同市周辺並びにリヴィウ州に渡航する必要があると考える場合には、渡航の必要性及び緊急性、所属企業や団体等の指示に基づく組織としての必要かつ十分な安全対策を準備した上で、渡航の2週間前までに、外務省窓口に相談してください。
提出する渡航計画には以下が必須項目です。
- 渡航目的(必要性および緊急性)
- 渡航日程(必要最小限・原則2週間以内)
- 渡航者情報、連絡先・宿泊先
- 目的地までの移動手段(周辺国・キーウ間およびキーウ・リヴィウ間の移動は鉄道を利用すること、ポーランド・リヴィウ州間の移動は車両移動も可)
- 具体的な安全対策(シェルターを備えた安全な宿舎の確保、車両・徒歩での移動時の信頼できる警備会社の警護員の同行(鉄道移動時の警護員同行については推奨)、活動・宿泊中の同行・サポート体制は必須)
問い合わせ窓口は外務省の mofakyiv@mofa.go.jp、フォーマットは在ウクライナ日本国大使館の渡航計画フォーマット及び記載例から取得できます。
ポイントは3つ。鉄道が事実上の指定移動手段(航空便はキーウ・リヴィウとも商用運航停止中)、シェルター付き宿舎が必須(後述のマップ参照)、警備会社の警護員同行が前提——これらが揃わない計画は事前相談の段階で受からないと考えてよい構造です。
Travel Alert 02
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キーウ大使館は再開済みだが領事窓口は閉鎖継続
侵攻直後の対応で大使館機能は数回移転しています。外務省の「ウクライナ情勢に関する対応」ページから邦人保護関連の主要措置を時系列で整理すると、
- 2022年2月28日:ポーランド・ジェシュフ臨時連絡事務所 開設
- 2022年3月2日:在ウクライナ大使館業務をリヴィウ連絡事務所へ一時移転
- 2022年3月7日:リヴィウ連絡事務所職員の一時的国外移動
- 2022年5月14日 / 6月4日 / 6月19日:ウクライナ在留邦人の帰国支援(3次にわたり実施)
- 2022年10月5日:在ウクライナ大使館の再開
- 2023年4月24日:ポーランド・ジェシュフ臨時連絡事務所 閉鎖
つまり 2022年10月にはキーウ大使館が再開、2023年4月にはポーランド側の臨時事務所も閉鎖済み。物理的にはキーウで運営されていますが、肝心の領事窓口は次のとおり停止中です。
在ウクライナ日本国大使館では短期商用又は親族訪問の査証申請のみ取り扱っています。 現在、在ウクライナ日本国大使館では旅券業務を実施していません。 現在、在ウクライナ日本国大使館では各種証明業務は行っていません。 現在、在ウクライナ日本国大使館では戸籍・国籍関係届業務は行っていません。
旅券再発給・各種証明・戸籍国籍届は 在ポーランド日本国大使館(ワルシャワ)が代行します。安全対策基礎データにも「※旅券等の通常の領事窓口業務については、在ポーランド日本国大使館が対応します」と明記されています。
ウクライナ国内で書類を作る前提で渡航計画を組むと詰みます。現地に入る前にパスポートの残存有効期限を確認しておく、戸籍関係の届出は出国前に済ませておく、というのが現時点の運用です。
緊急時連絡先(在ウクライナ日本国大使館・キーウ):
- 領事メール:
ryouji@kv.mofa.go.jp - 緊急時電話:+380-50-335-7247
- 大使館代表:+380-44-490-5500(住所:34B Velyka Zhytomyrska str, Kyiv, Ukraine, 04053)
シェルター・避難所マップは大使館サイトに集約
ミサイル・ドローンの飛来は2026年4月時点でも継続中です。在ウクライナ日本国大使館は、滞在地別の公式シェルター・避難所マップを直接案内しています。
- キーウ市(シェルター):https://shorturl.at/ALJQB
- キーウ市(避難所):https://shorturl.at/XsVQL
- キーウ州:https://www.cutlink.in/s/LMReMz
- リヴィウ市:https://map.city-adm.lviv.ua/map/main
- ハルキウ市:https://smart.citynet.kharkov.ua/
- オデーサ市・オデーサ州:https://shorturl.at/Z5hTj
それぞれ各市役所が公開する公式マップで、民間まとめサイトではありません。在留邦人・滞在中邦人は滞在地のマップを必ず確認してください、と大使館は繰り返しています。
宿舎を選ぶときは「同じビルの地下にシェルターがあるか」「歩いて数分で公的シェルターに到達できるか」が判断基準です。渡航計画の安全対策欄で「シェルターを備えた安全な宿舎」と書かれているのは、このマップ上のシェルターと位置関係が成立する宿という意味だと考えるのが安全です。
核攻撃・放射能・戒厳令 — 大使館が公式に列挙する3層
平時の海外旅行で目にすることのない情報を、ウクライナの大使館は在留邦人向けに公式に案内しています。具体的には次の3資料。
- ウクライナ非常事態庁「放射能の危険性」
- キーウ市役所「放射能事故及び核攻撃を受けた際の対応要領」
- ウクライナ保健省「戒厳令下の国民への提言」
「核」「放射能」「戒厳令」という三層を日本の大使館が公式サイトで列挙しているという事実そのものが、ウクライナの位置付けを示しています。チョルノービリ原発周辺・ザポリッジャ原発周辺の情勢、戦術核に関する報道が出るたびに、これらの一次資料に当たるのが現地での実務です。
加えて、外務省は侵略地域への入域経路についてこう要請しています。
ロシアが違法に「併合」したウクライナ国内の地域への渡航のためのロシア査証取得の自粛要請(令和4年11月4日)
クリミア・ドネツク・ルハンスク・ザポリッジャ・ヘルソンの5地域は、ロシア側査証で「ロシア領」として入域するルートが存在しますが、外務省は その経路自体を取らないよう要請しています。報道・調査目的でも、ロシア査証経由の入域は記事の対象から外してください。
Travel Alert 03
無料クレカの"海外旅行保険の限界"は?
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平素の備え — 直ちに持ち出せる10日分
侵攻直前の2022年1月、外務省は在留邦人向けに「平素からの準備」を発信しました。今も実効性のあるリストです。
・旅券、現金(米ドル、ユーロ推奨)、貴金属等最低限必要な物は、直ちに持ち出せるよう安全な場所に予めまとめて保管しておいてください。 ・緊急時には一定期間自宅にて待機せざるを得なくなる場合も想定されますので、水、非常用食糧、医療品、衛生用品、防寒装備、燃料等を日頃から10日分程度は準備しておくことをお勧めします。
米ドル・ユーロの現金が指定通貨です(フリヴニャの両替・送金が機能しない場合に備える)。冬季は氷点下が常で、停電・暖房停止が長引くリスクから防寒装備・燃料が他国にはない項目として入っています。10日分という単位は、東側からの大規模空襲や送電網攻撃で都市機能が一時麻痺した際の経験値に基づくものと読み取れます。
ウクライナ国内の医療と保険の現実
外務省「世界の医療事情」(令和4年10月時点)の数値はそのまま引用に値します。
都市部でも規定どおり10分以内に救急車が現場に到着するのは3割程です。
WHO世界保健機関は、ウクライナをMDR-TB多剤耐性結核の蔓延国(high-burden country)の一つに挙げています。結核の発生率は人口比で日本の5倍以上です。
ウクライナ国内のHIV感染者数は20万人で、その4割は自分が感染していることを知らないと推定されています。
麻疹は、2018年と2019年に感染者が年間5万人を超え大流行となりました。
救急番号は 103(全国共通)ですが、運用は不安定。地域別の感染症リスクも具体的で、カルパチア地方/クリミア地方/ヴォリーニ州はダニ媒介性脳炎、ポルタヴァ・ザポリッジャ・ドネツク各州ではウエストナイル熱(過去10年で約100人感染)、2022年にはキーウ州ブロヴァリー・チェルカーシ州・リヴィウ州でレプトスピラ症が報告されています。
医療レベルそのものについて、外務省はこう書いています。
当地の医療レベルは、日常の外来診療では大きな問題は無いと考えますが、すぐに治療しなければ命に係わる救急の場合を除き、外科手術やがん検診などは、日本や欧州の病院を利用することをお勧めします。
万一に備えて、日本への緊急移送をカバーする十分な額の海外旅行傷害保険に加入しておきましょう。お薬については、偽薬も1割程度出回っていますので、注意が必要です。
日本への緊急移送をカバーする保険——これがウクライナ滞在で外務省が明示的に推奨している唯一の金融商品的アドバイスです。偽薬1割という数字も、現地調達ではなく常備薬を日本から十分量持ち込む判断材料になります。
ウクライナ単独の保険支払事例は公開されていない — ヨーロッパ参考額
ウクライナ単独の海外旅行保険支払事例は、損保ジャパン off! / ジェイアイ傷害火災ともに公開されていません。理由はシンプルで、観光ベースの渡航者がほぼいないため事例の絶対数が少なく、また業務渡航は通常の旅行保険ではなく戦争危険担保特約付きの特殊な保険(団体契約・短期出張保険等)で対応するケースが大半だからです。
参考までに、近隣ヨーロッパの保険支払事例で多いのは携行品損害(ジェイアイ「2024年度事故データ」によれば、ヨーロッパは携行品の割合が比較的高い地域)と疾病治療費(ポーランド・ドイツ・フランスの邦人受診で数十万〜数百万円規模)です。日本への医療搬送(チャーター便での緊急帰国)は欧州→日本でも数百万円〜1,000万円超の事例が他国で報告されており、ウクライナのような救急体制が不安定な国では同水準以上を見込むのが妥当です。
業務渡航で入る場合は所属企業の戦争危険担保付き保険が前提ですが、それでも個人で海外旅行傷害保険を上乗せするのが定石。詳しくは ヨーロッパの海外旅行保険 のページで、ヨーロッパ全域でカバーすべき項目と支払事例を整理しています。
Travel Alert 04
知らずに大損している海外ATMの罠
DCCって知ってますか?
侵攻前から武器が市中に流通していた構造
ウクライナの治安について、侵攻前の2021年時点で外務省はこう書いていました。
ウクライナで国際テロ組織の支部等の存在は確認されておらず、近年はイスラム過激派によるテロの発生も確認されていません。 ウクライナ東部で戦闘が続いていること等を背景に、ウクライナ全土に違法な武器が流通しています。
2020年内にウクライナ国内で304件の誘拐事件が発生しましたが、日本人の被害は確認されていません。
つまり2014年のクリミア危機以降、東部での戦闘を背景に違法な武器の市中流通という土台が既にあった。2022年以降の全面侵攻で、この武器流通が拡大していることは想像に難くありません。戦況が落ち着いた後も、戦後の治安悪化リスクとして武器流通・退役軍人問題・地雷・不発弾は長期的な課題として残ります。停戦後すぐに観光が戻る、という前提では考えないでください。
在留届とたびレジ — 大使館が連絡できる前提を作る
戦時下のウクライナ滞在で最優先の手続きは在留届(3か月以上滞在)またはたびレジ(短期滞在)への登録です。理由は単純で、登録されていない邦人には大使館が緊急連絡を取れないからです。
侵攻初期の3月〜6月にかけて、外務省は3次にわたって在留邦人の帰国支援を実施しました。このとき優先的に連絡を受けられたのは在留届を出している邦人です。同じことは今後の情勢悪化時にも繰り返されます。
加えて、空襲警報・退避指示・緊急連絡網は大使館が在留届のメールアドレスに送る形で運用されているため、登録なしでは情報が届きません。これは観光のための任意登録ではなく、戦時下では生命線と考えてください。
Travel Alert 05
空港であなたを待ちうける5つの罠
準備はできていますか?
関連リソース(公式)
- 外務省 海外安全ホームページ ウクライナ(危険・スポット・広域情報)
- 外務省 ウクライナ情勢に関する対応(邦人保護・経済復興・対露制裁)
- 外務省 ウクライナ基礎データ
- 在ウクライナ日本国大使館 領事・安全(シェルター情報・核攻撃対応含む)
- 在ウクライナ日本国大使館 渡航計画フォーマット
- 外務省 世界の医療事情 ウクライナ
ウクライナの状況は週単位で動きます。出発前・滞在中ともに、上記一次情報を自分の目で最新版に当て直してください。本記事は2026年4月時点のスナップショットです。