人口約1億7千万、ガンジス・ブラマプトラ両河川のデルタに広がる南アジアの国、バングラデシュ。JICA案件や縫製工場の出張で訪れる日本人が多い一方、外務省と在バングラデシュ日本国大使館の注意喚起を並べると、2026年2月総選挙を前にしたダッカの粗製爆弾とバス放火、空港から出た外国人旅行者の強盗被害、リキシャ乗車中の鞄強奪、緊急医療搬送1件3000万円、2015年ロングプール銃撃と2016年ダッカ襲撃で日本人8人が犠牲になったテロの記憶という、かなり重い話が並んでいます。
このページではバングラデシュ渡航前に押さえておきたい全体像を、外務省と大使館のデータだけを使ってまとめます。
Travel Alert 01
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危険レベルと今押さえておくべき情勢
外務省の危険情報はバングラデシュ全土を「レベル1:十分注意してください」とした上で、チッタゴン(チョットグラム)丘陵地帯のミャンマー国境一帯に別途の渡航制限を継続しています。
2026年2月に実施が見込まれている総選挙を見据え、ダッカを含むバングラデシュ各地で、様々な政治勢力による示威・妨害行為やそれに対する抗議活動を含め、政治的要因による突発的な衝突や襲撃事件等が発生する可能性があるため、引き続き注意が必要です。
選挙前の抗議活動は「ただのデモ」で終わらないのが当国の特徴。外務省はこう続けています。
ダッカ管区を中心に粗製爆弾(注:火薬をビニールテープで巻いたもの)の爆発が教会、病院及び主要道路等で発生し、負傷者が出ています。(中略)公共交通バスへの放火事案が数多く発生し、死傷者が出ています。
「選挙前=危険度が一段上がる」という前提で、2026年前半の渡航計画は立てる必要があります。
出典: 外務省「バングラデシュ 危険・スポット・広域情報」 https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_012.html
2015〜2016年、日本人8人がテロで犠牲になった国
バングラデシュが他の南アジアの国と決定的に違うのが、「日本人をターゲットにしたテロ」が現実に起きた国だという点です。大使館「安全の手引き」(令和8年1月版)の記述がストレート。
2016年7月1日には、武装集団がダッカ市内のレストランを襲撃し、日本人7名を含む20名(うち18名が外国人)以上が殺害される凄惨なテロ事件が発生しました。
さらにその前年、地方でも日本人が犠牲になっています。
2015年10月のロングプール邦人殺害事件、2016年7月のダッカ襲撃事件と2年連続して日本人がテロの犠牲となり、いずれも「ISILバングラデシュ」を称する組織による犯行声明が発出されました。
事件後の取り締まりで同型の大規模テロは発生していないものの、外務省は「依然としてテロの脅威は排除されていない」と明記しています。2023年にはバングラデシュを拠点とする新たな過激派組織の存在も確認されました。
出典: 外務省「バングラデシュ テロ・誘拐情勢」 https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcterror_012.html
チッタゴン丘陵地帯とロヒンギャ避難民キャンプ
「一般の観光では行かない方がいい」と大使館・外務省が揃って書いているエリアが2つあります。
チッタゴン(チョットグラム)丘陵地帯
南東部のインド及びミャンマーと国境を接するチッタゴン丘陵地帯には、仏教系少数民族が100万人以上居住しており、過去において、自治権等を求める反政府組織が結成され、多くの死傷者を出す対立抗争が度々発生しました。1997年に「チッタゴン丘陵地帯和平協定」が締結されて以降、抗争は鎮静化しましたが、民族対立は依然として未解決のままであり、散発的に抗争事件は発生(している)
カグラチャリ県・ランガマティ県・バンドルボン県。バングラデシュ治安部隊によるテロ掃討作戦のため、ミャンマー国境の一部で渡航制限が継続されています。
コックスバザールのロヒンギャ避難民キャンプ
現在、バングラデシュ南部コックスバザールでは、ミャンマーのラカイン州から避難してきた約100万人の「ロヒンギャ」が避難民キャンプに滞在しています。キャンプ内におけるギャング同士の抗争が報じられ(中略)過激派組織やロヒンギャ犯罪組織が、強奪、誘拐及び麻薬取引を独占する目的で、その優位性を主張するため、キャンプ内において縄張り争いを行っています。
コックスバザールはベンガル湾沿いのビーチリゾートとして紹介されることもありますが、隣接するキャンプ周辺の治安情勢を踏まえると一般観光向きではない、というのが現状です。
Travel Alert 02
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「日常のすべからず集」が存在する国
大使館の「安全の手引き」には、日常生活の禁止事項リストが丸ごと1章あります。これが当国の治安感覚を一番よく表しています。
ア 安全の3原則「目立たない、行動を予知されない、用心を怠らない」を厳守する。 イ 移動には自家用車やハイヤーを利用する。夜間、早朝のリキシャ、CNG(小型オート三輪車)、一般タクシー、Uberタクシーにはできる限り乗らないようにする。 ケ なるべく一人では行動しない。 コ 空港周辺で旅行ガイドやホテル従業員を装い気軽に声を掛けてくる人物には絶対についていかない。また、荷物を勝手に運搬しようとする者が多いため、必要なければはっきりと断る。 サ 列車、バス、フェリーなどの一般公共交通機関は、極力使用しない。 シ 見知らぬ人物から飲食物を勧められても口にしない(言葉巧みに飲食物を勧められ、口にした直後に意識が朦朧となり、その間に金品を奪われるというケースがある)。
東南アジアの国でよく見る「気をつけましょう」レベルではなく、「公共交通機関は極力使うな」「Uberも夜は乗るな」「空港の声かけには絶対についていくな」という強い口調で列挙されている。これが他の国と違うスタンスです。
出典: 外務省「バングラデシュ 安全対策基礎データ」 https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcsafetymeasure_012.html
犯罪の数字:殺人月300件ペース、空港強盗が実在
警察統計ベースの数字もかなり厳しいラインです。
バングラデシュ警察が公表している犯罪統計によれば、バングラデシュ全土における2025年の殺人事件の件数は、1月の294件から徐々に増加し、7月に最大の362件を記録しました。(中略)2024年12月に約5年ぶりに警察が公表した犯罪統計によれば、2024年中、国内で642件の誘拐事件が発生しています。
そして外国人旅行者にとってリアルなのがダッカ空港からの強盗。大使館は令和7年3月にこう注意喚起しています。
2月にバングラデシュ警察当局が発表した犯罪統計によれば、直近の数年及び前年各月との比較において、本年に入ってからの殺人、誘拐、強盗等の犯罪件数は、増加しています。先般、外国人旅行者がダッカ空港からの移動中に強盗に遭う事件も発生しました。
空港から市内のホテルまでのタクシー・配車アプリ移動は、他の南アジア都市以上に神経を使う必要がある、という実例です。具体的な手口はダッカのスリ・ひったくりとダッカのタクシー・交通トラブルで詳しく扱います。
飲食物を勧められて意識朦朧、は「明記」された手口
これも他の国と並べると異例のストレートさ。A2・安全対策基礎データに直接書かれています。
見知らぬ人物から飲食物を勧められても口にしない(言葉巧みに飲食物を勧められ、口にした直後に意識が朦朧となり、その間に金品を奪われるというケースがある)。
「ケースがある」と過去事例として既に記録されているのがバングラデシュ。同じ手口はダッカの睡眠薬強盗で掘り下げます。
Travel Alert 03
無料クレカの"海外旅行保険の限界"は?
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モブジャスティス:スリ犯が殺される文化
もう一つ、旅行者が知っておくべき現地の文化があります。
携帯電話や財布を盗んだ者や交通事故を起こした者に対して、被害者や周囲にいる人々が暴力を振るい、殺害したり、けがをさせたりするモブジャスティスも依然として発生しています。
つまり「スリを現行犯で捕まえる」「交通事故を起こす」と周囲に殴り殺される可能性がある国、ということ。日本人の当事者事例は記録にありませんが、被害に遭っても犯人を追わない・事故っても降りずに車を出す(安全な場所まで移動してから警察)が大使館の推奨スタンスです。
医療事情:専門治療は国外、緊急搬送1件3000万円
バングラデシュの医療は、海外旅行保険の観点で見ても飛び抜けて重い国です。外務省「世界の医療事情」の書き方がまっすぐ。
バングラデシュの医師や医療スタッフの数は日本に比べるとかなり少ない水準に留まっています。2020年のデータでは、医師の数は日本が人口10,000人あたり25.7人なのに対しバングラデシュは6.67人です。
専門的な治療や入院を要する場合は国外(日本、バンコク、シンガポール)で治療を受けているのが現状です。
そしてコストの話。
医療費は、外国人がよく利用する私立病院では高額です(おおよそ日本で診療した場合の10割負担相当)。さらに国外への緊急医療搬送が必要になった際には多大な経費がかかります。年々医療搬送費用は上昇しており、一搬送あたり3000万円程度かかるケースもあります。
この「3000万円」は南アジア全体でも最高レベルの金額感。救援者費用・医療搬送費用がしっかり付いている海外旅行保険が必須、と外務省自身が直接書いている国は多くありません。感染症込みの詳細はダッカの感染症・医療に。
出典: 外務省「世界の医療事情 バングラデシュ」 https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/asia/bangla.html
デング熱:2023年に32万例、1705人死亡
もう一つ、B1に数字で書かれている重い感染症。
デング熱はダッカ市内など都市部でも発症者が多く、身近に潜む比較的怖い感染症の1つです。2019年は、10万例を超えるデング熱患者の大量発生が報告されています(うち164人死亡)。(中略)また2023年は32万例を超える患者数の発生(うち1705人死亡)がありました。
狂犬病(2020年に20人死亡)、ニパウイルス(致死率40〜75%、ナツメヤシ樹液経由)、チッタゴン丘陵・コックスバザール北部のマラリア、と他の南アジア諸国と比較しても感染症リスクが厚い。医療・感染症の詳細もダッカの感染症・医療にまとめています。
Travel Alert 04
知らずに大損している海外ATMの罠
DCCって知ってますか?
緊急連絡先(ダッカ)
大使館「安全の手引き」と領事ページから。
| 用途 | 番号 |
|---|---|
| 一般緊急ダイアル | 999 |
| 在バングラデシュ日本国大使館(領事班・警備班) | +880-2-2222-60010 |
| ダッカ首都圏警察本部 | 01320-051998 |
| 外国人企業向け緊急電話(BIDA) | 01320-001222 / 01320-001223 |
大使館・日本人会では緊急連絡網が整備されており、長期滞在者は登録必須。出張・旅行者はたびレジへの登録が現地での「連絡可能な状態」を作る最低ラインになります。
周辺国とどう違うか
南アジアの近隣国と並べた時のバングラデシュの立ち位置はざっくりこう。
- インド:人口規模・犯罪の種類は似るが、日本人テロ被害・政治不安・緊急搬送費の重さでバングラデシュの方がハード。
- ネパール:観光客向けの路上犯罪は似ているが、バングラデシュはレベル1全土+政治選挙リスク+テロ記憶がまず前提。
- スリランカ:内戦後の治安は比較的安定。バングラデシュの方が政情不安は濃い。
南アジア全体の保険の目安は南アジアの海外旅行保険ガイドにまとめています。
Travel Alert 05
空港であなたを待ちうける5つの罠
準備はできていますか?
まず読むべきページ
- ダッカの治安まとめ — 首都・最大都市、旅行者の事案はほぼここ集中
- ダッカのスリ・ひったくり — 空港強盗、リキシャ鞄強奪、侵入窃盗
- ダッカのタクシー・交通トラブル — CNG/リキシャ/Uber、モブジャスティス
- ダッカの睡眠薬強盗 — 飲食物を勧められ意識朦朧(A2明記)
- ダッカの感染症・医療 — デング・狂犬病・緊急搬送3000万円