パキスタンはインダス文明発祥の地、世界遺産モヘンジョダロ・ラホールのバーズシャーヒー・モスク、北部のカラコルム・ハイウェイ沿いのフンザ渓谷など、観光資源が豊富な国です。ただ、外務省の危険情報を開くと全土が最低でもレベル2、地域によってレベル3〜4まで段階分けされた、南アジアでもっとも治安管理が複雑な国の1つでもあります。2025年11月、イスラマバードの地方裁判所前で自爆テロが発生し12人が死亡36人が負傷、2024年4月にはカラチ市内で邦人を乗せた車列に対する襲撃事件が発生、在パキスタン大使館は2026年1月のイスラマバードでの安全対策セミナーで実際に銃撃・爆弾テロに巻き込まれたことを想定して伏せ動作やほふく前進訓練まで取り入れる、という段階の国です。
このページでは「それでも行く必要がある人」向けに、パキスタン渡航前に押さえておくべき話を外務省と在パキスタン日本国大使館・在カラチ総領事館のデータからまとめます。
Travel Alert 01
海外の無料WiFiには危険が潜んでいる
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危険レベル ― 全土が4段階に細分化
外務省の危険情報はパキスタンを4段階で塗り分けています。
パキスタンにおいては各地域情勢に応じて、「レベル4:退避してください。渡航は止めてください(退避勧告)」、「レベル3:渡航は止めてください(渡航中止勧告)」、「レベル2:不要不急の渡航は止めてください」の危険情報が発出されています。
ざっくりエリア別:
- レベル4(退避勧告): アフガニスタン国境周辺、ハイバル・パフトゥンハー州(KP州)の指定外地域、旧連邦直轄部族地域(旧FATA)全域、インドとの管理ライン(LoC)周辺、バロチスタン州クエッタ市
- レベル3(渡航中止勧告): KP州のノーシェラ郡・スワビ郡、バロチスタン州のデラ・ブグティ郡・コールー郡、シンド州ジャコババード郡、チトラール郡、イラン国境周辺
- レベル2(不要不急の渡航中止): イスラマバード首都圏、ラホール市を含むパンジャーブ州、カラチ市を含むシンド州(一部除く)、KP州のアボタバード郡他、AJK・GB地域(境界周辺除く)
つまり観光地として知られるイスラマバード・ラホール・カラチ・北部のフンザ・ギルギット〜バルティスタン地域はすべてレベル2で「不要不急の渡航中止」が出ている、というのが出発点です。クエッタはレベル4(退避勧告)まで上がっており、観光ルートとして組むのは現実的でない。
一般犯罪 ― 大都市の犯罪発生件数が増加
外務省安全対策基礎データの書き方。
イスラマバード、カラチ、ラホールなどの大都市においては、顕著に犯罪発生件数が増加しています
具体的な手口は4類型に整理されています。
ア スリ:乗り合いタクシーやバスの車内および商店等、不特定多数の人が集まる場所において、スリなどの窃盗被害が発生しています。 イ 偽警察官による窃盗等:ホテルやマーケット等の周辺で、警察官を装った者による窃盗・強盗・詐欺事件。2024年5月、イスラマバード市内のマーケットにおいて、偽警察官に所持品検査を求められたヨーロッパ人、現金と貴重品を持ち逃げされる事件 ウ 強盗:白昼、銀行や商店を襲う強盗事件。走行中の車両の前方を塞ぐ、急ブレーキを掛けさせる、道路上に障害物を置くなどで停車させ銃で脅して金品や車両を強奪 エ 武装強盗団(ダコイト):バスの乗客を装った人物が他の乗客の現金を強奪
加えて性犯罪・住居侵入の事例も具体的に記載されています。
(ア)2022年7月、ラホールにおいて外国人女性が自宅を警備していた警備員に銃を突き付けられ、さらに手足を縛られ現金やオートバイを強奪 オ 性犯罪:夜間を中心に強制わいせつや強姦等の性犯罪が多く発生。2022年6月、イスラマバードにおいて外国人女性の自宅を警備していた警備員が寝室に侵入しレイプする事案
「ホテルや自宅で雇った警備員が加害者になる」というパターンが2022〜2024年にかけて複数記録されているのは、パキスタン特有の構造的リスクとして覚えておく必要があります。詳細はイスラマバードのスリ・置き引き・偽警察官、カラチのスリ・モバイルスナッチングに。
Travel Alert 02
海外の決済で3.5%も搾取されている現実
あなたは知っていますか?
テロ・武装勢力 ― TTP・IS-K・BLAの活動継続
2021年8月のタリバーンによるアフガニスタン・カブールの制圧以降、地域情勢が不安定化。2022年11月、パキスタン・タリバーン運動(TTP)がパキスタン政府との停戦協定の破棄を宣言。2025年11月、イスラマバードの地方裁判所の前で自爆テロが発生し、12人が死亡、36人が負傷。
押さえる主体:
- パキスタン・タリバーン運動(TTP): 2022年に停戦破棄、KP州・部族地域中心に活動継続
- IS-K(イスラム国ホラーサーン州): 自爆テロ・モスク襲撃を実行
- バルチスタン分離派(BLA等): クエッタ・グワダル中心、中国人・外国人を標的にした襲撃あり
邦人襲撃事案
2024年4月、カラチ市内で発生した邦人を乗せた車列に対する襲撃事件
カラチで在留邦人の車列が襲撃されているのは2024年4月の現実。在カラチ総領事館はこの事案以降、観光警察エスコート制度の利用、武装護衛車両の手配、空港送迎の事前手配を強く推奨しています。
在外安全対策セミナーが「銃撃・爆弾テロ訓練」をやっている
2026年1月30日、在パキスタン大使館はイスラマバード市内のホテルで在外安全対策セミナーを実施。実際に銃撃・爆弾テロ等に巻き込まれたことを想定して伏せ動作やほふく前進訓練など取り入れた
これは在留邦人向けの実践レベルがどの段階かを示す重要な記述。レベル2エリアのイスラマバードでも、銃撃・爆弾を想定した訓練が必要な治安水準と大使館自身が判断しているということです。
印パ緊張 ― 2025年5月の軍事衝突と継続中の警戒
2025年5月7日 [広域情報] インド・パキスタン間の緊張の高まりに伴う注意喚起 / 2025年5月9日 [スポット情報] パキスタン・インド間の緊張の高まりに伴うインド国境地域及びその他の地域に関する注意喚起
2025年4月、インドのジャンムー・カシミール州で観光客を狙った銃撃テロ。インド政府はパキスタン支援の武装勢力による犯行と非難。インドは、パキスタン統治下のカシミール地域(PoK)にあるテロ拠点を空爆し「オペレーション・シンドゥール」を実施。両国はその後、軍事衝突を繰り返した。5月一時停戦に合意しましたが、緊張状態は現在も継続中
押さえる線:
- 印パ国境(LoC含む)周辺はレベル4(退避勧告)
- 緊張が再燃した場合、両国間の航空便運休・領空閉鎖が起こりうる
- インド経由で陸路入国するルートは現実的でない
デモ・政治不安
2022年5月、イスラマバード、シンド州のカラチ、パンジャブ州のラホールにおいて前与党パキスタン正義運動(PTI)によるデモ活動が暴徒化、一部地域ではデモ隊による放火、死傷者発生。2024年11月、カーン前首相の拘束及びインフレに対する大規模デモがイスラマバードで発生
PTI支持者と治安部隊の衝突は四半期レポートでも継続的に記録されています。観光客が直接巻き込まれる確率は低いものの、
- イスラマバードのD-Chowk周辺、Red Zone(外交官地区)
- ラホールのマインホールタウン
- カラチのカラチプレスクラブ周辺
ではデモ発生時の通行止め・催涙ガス使用が起こりうるため、ホテルからの不要な外出を避けるのが基本です。
Travel Alert 03
無料クレカの"海外旅行保険の限界"は?
補償額をふやすウラ技も
医療事情 ― バンコク搬送が現実解
外務省「世界の医療事情」と在パキスタン日本国大使館の見立て。
- イスラマバード: シファ国際病院、CMHラワルピンディ
- カラチ: アガ・カーン病院、サウスシティ病院
- ラホール: ファティマ・ジンナ病院ほか
衛生水準が低く生水・生鮮食品リスク大
これに加えて、腸チフス・狂犬病・デング熱・チクングニア熱・A型/E型肝炎・ポリオ未根絶国という感染症リスクが重なります。
保険会社の支払事例 ― イスラマバード肝炎搬送207万円
D系(保険会社)でパキスタン名指しの公開事例があるのは損保ジャパン off! の1件。
パキスタン Mさん(22才男性)、肺炎で入院。イスラマバードを一人旅中、肝炎になり入院。別途旅行中の弟、日本から母と親戚が救援者として付き添い。バンコクへ転院、入院し、その後バンコクから帰国。お支払した保険金 207万円。
肝炎でバンコクへ国外搬送しているのが現実。パキスタン国内の私立病院で対応できる範囲は限定的で、重症化したらバンコクまたはドバイへの医療搬送が標準的な選択肢になります。具体的な保険の選び方はパキスタンの感染症・医療、南アジア旅行の保険ガイドに。
違法薬物 ― 大麻密輸の運び屋利用に注意
2025年4月30日 [広域情報] 違法薬物(大麻等)の密輸に関する注意喚起
国境周辺は麻薬や武器の違法取引やテロリストの避難場所
パキスタンはアフガニスタン・イラン国境を抱える麻薬の流通地域で、第三者から「日本に荷物を届けてほしい」と頼まれて麻薬運び屋にされる事案が広域注意喚起の対象になっています。シャリーア法的環境下では麻薬関連で死刑求刑の可能性もあり、「知らなかった」は通用しません。詳細はパキスタンの薬物トラブルに。
Travel Alert 04
知らずに大損している海外ATMの罠
DCCって知ってますか?
女性のリスクと服装
特に女性の一人歩きや夜間の外出は避ける必要があります。性犯罪の被害者は女性に限らず、子供や青年なども含まれる
在パキスタン日本国大使館「安全の手引き」は、シャルワール・カミーズ(民族衣装)の着用、頭髪を覆うドゥパッタの常時携帯、男性同伴または運転手付き車両での移動、ホテル外出時は事前申告を推奨しています。
外国人女性の単独行動はリスクが高く、ガイド・運転手付きツアーが事実上の前提になります。
都市別の状況
レベル2エリアの主要都市、それぞれの色合い:
- イスラマバード: 首都圏・外交官地区。偽警察官詐欺・PTIデモ・自爆テロ事案
- カラチ: 経済の中心・人口2,000万人。武装強盗団・モバイルスナッチング・邦人車列襲撃
- ラホール: 文化の中心、観光客が比較的多い。警備員による外国人襲撃事案(2022年7月)
それぞれの都市別記事に詳細を書いています。
Travel Alert 05
空港であなたを待ちうける5つの罠
準備はできていますか?
それでも行く人向けのチェックリスト
- 出発前に「たびレジ」登録(緊急時の在外公館からの連絡経路)
- 海外旅行保険は治療救援3,000万円以上+テロ・戦争危険補償の有無を必ず確認。クレジットカード付帯のみは推奨水準を満たさない可能性が高い。具体は南アジア旅行の保険ガイド
- 空港送迎・市内移動は事前手配の専用車(流しタクシー・乗り合い車両は避ける)
- ホテルは在外公館が安全と認める格式の宿を選ぶ(5スター系の警備が固いホテル)
- デモ・大規模集会の予定をニュースで確認してから外出
- 第三者からの荷物預かりは絶対NG(麻薬運び屋にされるリスク)
- 女性はシャルワール・カミーズ+ドゥパッタの着用、単独外出を避ける
- 通信は海外eSIM比較ガイドで出国前に手配
- カラチでは観光警察エスコート制度の利用を検討
- 印パ緊張・テロ事案発生時は直ちにホテルに退避、大使館からの指示を待つ
パキスタンは観光資源の豊かさと、自爆テロ・武装強盗・銃撃想定の在外安全セミナーという現実が同居する国。「それでも行く必要がある」明確な理由がある場合のみ、相応の備えで臨む——というのが外務省・大使館情報を素直に読んだ結論です。