ロシアはかつて日本人にとって、サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館・モスクワの赤の広場・シベリア鉄道といった「いつかは行きたい国」でした。ただ2022年2月24日のウクライナ侵略開始以降、状況は別次元に変わりました。日本からの直行便は停止し、VISA/Master の国際クレジットカードは使えず、外貨持ち出しも制限され、外務省の危険レベルは国境周辺がレベル4(退避勧告)/それ以外(モスクワ含む)がレベル3(渡航中止勧告)で固定されています。
このページは観光客向けではありません。仕事・家族・帯同などで「真にやむを得ず行く必要がある人」が、外務省と在ロシア日本国大使館の最新データから何を押さえるべきかをまとめました。
現在ロシアへの渡航は外務省レベル3(渡航中止勧告)
2025年9月12日付の外務省危険情報で、ウクライナとの国境周辺地域はレベル4「退避してください」、それ以外(モスクワ市を含む)はレベル3「渡航は止めてください」が継続しています。観光目的での渡航は控えるべき水準です。本記事は仕事・家族の事情で「それでも行かなければならない人」向けに、現地の実情を一次ソースから整理したものです。
Travel Alert 01
海外の無料WiFiには危険が潜んでいる
あなたのアクセス、丸見えです
危険レベルと名指しされた地域
外務省の危険情報(2025年9月12日付)はロシアを2段階に分けてます。
●ウクライナとの国境周辺地域 レベル4:退避してください。渡航は止めてください。(退避勧告)(継続) ●ウクライナとの国境周辺地域を除く地域(モスクワ市を含む) レベル3:渡航は止めてください。(渡航中止勧告)(継続:ただし書きの修正)
レベル4(退避勧告)の対象は次のエリア。
- ウクライナ隣接5州: ブリャンスク、クルスク、ベルゴロド、ヴォロネジ、ロストフ各州
- 北カフカス連邦管区の構成主体: チェチェン、イングーシ、ダゲスタン、北オセチア・アラニア、カバルダ・バルカル、カラチャイ・チェルケス各共和国およびスタヴロポリ地方
外務省はレベル3対象地域(モスクワ含む)について、こう書いてます。
ただし、真にやむを得ない事情がある場合には以下※を除く地域(モスクワ市を含む)に渡航・滞在することは妨げませんが、その場合には、特別な注意を払うとともに、現地の日本国大使館または日本国総領事館と密接に連絡を取り、十分な安全対策を講じて下さい。
つまり「観光は止めて、仕事や家族の事情で行く人だけ、大使館と連絡を取りながら気をつけて」というスタンス。さらにこう続きます。
国内情勢が急変するとロシアからの出国手段がより一層制限される可能性がありますので、ご留意ください。
いつ閉じるかわからない国、というのが2026年時点のロシアです。
経済制裁下での3つの実務リスク
外務省と在ロシア日本国大使館「モスクワ滞在上の注意点」(2024年7月版)から、現地で生活・出張する人がまず引っかかる3つ。
2022 年 2 月 24 日のロシアによるウクライナ侵略開始以降、経済制裁に伴い一部の国々との間を除き直行便の運航が停止しています。今後の情勢次第では出国手段が更に制限されることも考えられます。また、国際クレジットカード(VISA、Master 等)の決済事業停止、国際送金の停止、外貨現金の持出制限が継続しているほか、ロシアは日本を含む西側諸国を「非友好国」と位置付け経済制裁に対する様々な対抗措置をとっています。
具体的に何が起きるか。
- 直行便停止 — 日本からは第三国経由(中央アジア・中東・トルコなど)でしか入れない。出国時も同じで、最悪「便がなくなった」が起きる
- 国際カード使えない — VISA / Mastercard / JCB すべて決済不可。現地ではロシア製の Mir カード、または現金(ルーブル)必須
- 国際送金停止 — SWIFT 経由の送金がほぼ止まっており、生活費の補填が日本から極めて困難
大使館はこう指摘してます。
滞在中の方は商用便による出国を検討してください。
事態がさらに悪化する前に、出国の選択肢を常に2つ以上持っておくのが現地滞在者の鉄則です。
Travel Alert 02
海外の決済で3.5%も搾取されている現実
あなたは知っていますか?
クロッカス・ホール銃撃テロと無人機飛来(2024〜)
2024年3月22日、モスクワ州クラスノゴルスク市のコンサート会場で、ロシア有数の大規模テロ事件が起きました。在ロシア日本国大使館「安全の手引き」から。
2024 年 3 月 22 日、(モスクワ中心部から約北西 20km)のコンサート会場「クロッカス・シティー・ホール」において銃撃テロ事件があり、多数の死傷者(死亡者は 140 人以上)が出ています。本件については「イスラム国」(IS)が犯行声明を出しており、今後も警戒が必要です。
外務省「テロ・誘拐情勢」(2025年7月24日付)によれば、死者は最終的に145名まで確認されました。さらに無人機の飛来も続いてます。
ロシア国内への無人機の飛来が見られます。特にモスクワでは 2023 年 7 月から 8 月にかけて複数回にわたり「モスクワシティ」に無人機が飛来し、高層ビルの一部が損壊するなどの被害が出ています。
過去のモスクワでの大型テロ事案。
- 2010年3月29日: 地下鉄「ルビャンカ」駅および「パルク・クリトゥールィ」駅で連続自爆テロ、多数の死傷者
- 2011年1月24日: ドモジェドヴォ空港の国際線到着ロビーで爆発、外国人を含む37人死亡・170人負傷
大使館の行動指針はシンプル。
不特定多数が集まるイベント、公共交通機関、大型商業施設などを利用する際には、引き続き周囲への警戒が必要です。
特に避けるべき場所として大使館が列挙しているのは、地下鉄・鉄道駅・空港、スタジアム、大型スーパー、著名な広場(プーシキン広場・マネージ広場・戦勝記念公園・アルバート通り等)、コンサート会場、政府関係施設・軍事施設。観光資源と完全に重なってます。
反戦・反政府活動と外国人拘束
レベル3でも特に押さえておくべきが、集会・デモへの近接でも拘束されるという点。「安全対策基礎データ」(2024年12月5日更新)から。
治安当局は「軍の信用毀損」法や「外国の代理人」法などの運用により、反戦運動や反政府的な活動に対する取り締まりを強化しており、外国人を含む市民が拘束される事案が散見されます。
大規模な集会・デモ行進が行われた際には、治安当局が参加者のみならず、付近にいる者も拘束する事案が発生しています。
つまり「たまたま通りかかった」でも拘束対象になり得る。大使館はこう書いてます。
無用なトラブルを回避するためにもこれらの集会やデモに近づくことは絶対に避けるべきであり、万一遭遇した場合には直ちに現場から離れるようにしてください。
SNS発信も対象です。在ウラジオストク総領事館の「安全の手引き」から。
ロシアによるウクライナ侵略に関連し、反戦集会の呼びかけや対露制裁の支持等を行った者に対する当局の取り締まりが行われています。SNS による投稿や書き込みも取り締まり対象となります。当地から情報発信する際には十分内容を検討するよう心掛けてください。
ロシア国内にいる間は、政治・戦争に関するSNS投稿を一切やめる。これが現地滞在者の標準ルールです。
一般犯罪——統計で見るロシア
2023年のロシア内務省統計(在ロシア日本国大使館「安全の手引き」より)。
- 殺人: 7,466件(日本912件)
- 強盗: 25,580件(日本1,361件)
- 強姦: 3,096件(日本2,711件、不同意性交等)
- 窃盗: 583,343件(日本483,695件)
日本に比べると依然として凶悪犯罪件数が多い状況です。
モスクワ市単独でも東京と比べると凶悪犯罪が多発。
- 殺人: 160件(東京都94件)
- 強盗: 1,342件(東京都235件)
- 窃盗: 44,442件(東京都59,888件)
大使館「モスクワ滞在上の注意点」に記録されている邦人被害例の一部。
繁華街付近の地下道内で肩にかけていたバッグから財布が盗まれた。
地下鉄環状線の車両内で、後ろポケットに入れていたスマートフォンが盗まれた。
在留邦人が旅行から帰宅したところ、アパート5階の室内が荒らされていた。玄関扉には4か所施錠してあったが、すべて壊されていた。現金、貴金属、ノートパソコンが盗まれた。
深夜、地下鉄駅から自宅まで徒歩で帰宅途中、公園前を通過中、いきなり3人組の若者から殴る蹴るの暴行を受け、現金、携帯電話が入っていたバッグを盗まれた。
深夜、タクシーに乗り自宅近くで下車、数百メートルを歩いて自宅アパート敷地入口まで来たところで、背後から2人組の男にナイフで脅され、バックをひったくられそうになって抵抗したところ、ナイフで手を切りつけられ重傷を負った
深夜・地下鉄・自宅前の3点セットが特に危険、というのは事例から読み取れる現地ルールです。
Travel Alert 03
無料クレカの"海外旅行保険の限界"は?
補償額をふやすウラ技も
不良警察官・偽警官の罰金詐欺
ロシアでは「警察官を装った金品要求」が定番の詐欺パターン。大使館の被害例から。
赤の広場付近で警官 2 名に声をかけられた。パトカーに乗せられ所持品のチェックをした後、滞在登録に不備があり、不法滞在者であると言われ現金の支払いを要求され、支払わなければ刑務所に行くことになると恐喝された。
市内北東部の地下鉄駅付近を歩いていたところ、警官に身分証明書の提示を求められた。到着通知に不備があるとして5,000ルーブルを支払うよう要求してきたため、その場から大使館に連絡した。大使館から警官に対し現場での罰金の支払は認められていない旨抗議したところ、同人らは解放された。
大使館の対策方針はクリア。
いかなる事情があろうとも、警察官が現場で罰金(現金)を要求することは認められていません。そのような行為に遭遇した場合には、支払を拒否するとともに、不良警官を特定するため氏名、階級、所属先等をメモし、休日・深夜を問わず、直ちに大使館に御連絡願います。
要点は3つ。(1) 現場での現金支払いは100%違法 (2) その場で大使館に電話 (3) 警官の氏名・階級・車番をメモ。これさえ知っていればまず破綻しません。
LGBT法と外国人エージェント法
ロシアには日本にない法律が2つあり、外国人にも適用されます。
「同性愛等の情報流布の制限に関する法律(LGBT法)」により、同性愛等の情報流布や関心を喚起する情報の強制は、罰金や拘束の対象とされています。
治安当局は「軍の信用毀損」法や「外国の代理人」法などの運用により、反戦運動や反政府的な活動に対する取り締まりを強化しており、外国人を含む市民が拘束される事案が散見されます。
LGBT関連の発信・着衣・言動・SNS投稿は滞在中は徹底して避ける。ジャーナリストや調査活動の場合は特に「外国の代理人」指定リスクが伴うので、観光ビザでの取材は処罰対象です。
観光や商用の査証で入国し、実際には調査活動をしていたとして処罰される事案が少数ながら発生しています。
医療事情と海外旅行保険の支払保証
経済制裁下のロシアでは医療面のリスクも独自です。「安全対策基礎データ」から。
ロシア国内の欧米系のクリニックでの治療費や移送費は極めて高額のため、補償範囲の広い海外旅行保険に加入しておくことをおすすめします。また、本邦への転院や緊急移送の際には、煩雑な手続きや高額な費用を請求されることが予想されますので、手続きの代行や病気、傷害等に対する金銭面での対応をカバーする保険に加入していれば、緊急の事態にも対処できます。
ただし2026年時点で日本の保険会社のキャッシュレス・サービス対応は極めて限定的です(多くがロシアからの引揚げ・支払代行を停止)。「いったん全額立替→帰国後請求」を前提に資金準備が必要、と理解しておくべき水準です。
極東・シベリアではダニ脳炎の予防接種が推奨されます。
極東・シベリアでは、春先から夏季にかけて森林・草原に入ってダニ(マダニ)に刺されると、非常に危険なダニ脳炎にかかるおそれがあるので、そのようなことが予定される場合にはダニ脳炎の予防接種を受けておくことをおすすめします。
Travel Alert 04
知らずに大損している海外ATMの罠
DCCって知ってますか?
退避ルートと大使館連絡先
「いざ」のときの退避ルートとして大使館が想定しているのは次のとおり(モスクワ滞在上の注意点)。
定期航空便が利用できなくなった場合、状況によっては陸路を利用しての退避が必要になってくることもあり得ます(陸路での国外退避は情勢によって異なりますが、モスクワからはサンクトペテルブルク経由フィンランドや、モスクワからエストニア、ラトビアが考えられます)。
つまり陸路でのEU諸国行きが第二プラン。退避先となる各国の現地状況はフィンランド・エストニア・ラトビアのページを事前に確認しておくと、いざという時に動きやすくなります。在留届とたびレジは「届出済み」状態を常時維持してください。
公館連絡先(緊急電話)。
- 在ロシア日本国大使館(モスクワ): +7-495-229-2550 / 2551
- 在サンクトペテルブルク日本国総領事館: +7-812-314-1434 / 1418
- 在ウラジオストク日本国総領事館: +7-423-226-7481 / 7558
- 在ハバロフスク日本国総領事館: +7-4212-41-30-44 / 30-45 / 30-46
- 在ユジノサハリンスク日本国総領事館: +7-4242-72-60-55 / 72-55-30
ロシア国内の緊急通報は 102(警察)/103(救急車)/101(消防)/112(統一緊急ダイヤル)。112は英語対応可能な場合があります。
都市別の傾向
ロシア国内の主要都市は5公館の管轄ごとに性格が違います。それぞれの記事で詳細を扱ってます。
- モスクワ — 首都、テロ・無人機リスクの中心、レベル3
- サンクトペテルブルク — 北西連邦管区、観光地としての名残、地下鉄スリ多発
- ウラジオストク — 沿海地方、極東日本人滞在者の中心、犯罪率は日本の3倍超
- ハバロフスク — 極東連邦管区行政中心、領事業務縮小傾向
- ユジノサハリンスク — サハリン州、日本に最も近いロシア領、令和8年版の手引き整備済み
Travel Alert 05
空港であなたを待ちうける5つの罠
準備はできていますか?
まとめ
- ロシアは2026年現在、外務省レベル3(モスクワ含む)/レベル4(国境周辺・北コーカサス)。観光は不可、業務渡航のみ
- 経済制裁の3点セット: 直行便停止/国際カード不可/国際送金停止。出国手段は常に複数確保
- 2024年クロッカス銃撃テロ(145名死亡)以降、不特定多数が集まる場所のテロ警戒継続。無人機の飛来も
- 集会・デモへの近接だけで拘束対象、SNS発信も「軍の信用毀損」法・「外国の代理人」法の取締り対象
- LGBT法・外国人エージェント法は外国人にも適用。滞在中の発信は徹底自粛
- 不良警察官の罰金詐欺は定番、現場での現金支払いは100%違法を覚えておく
- 在留届・たびレジ登録、出国ルート2つ以上、海外旅行保険は支払保証なしを前提に立替準備
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