ルクセンブルクは「EUの金融拠点で物価の高い小国だから安全」というイメージで行くと、首都の中央駅で殴られて荷物を持っていかれます。2024年8月版の大使館「安全の手引き」は冒頭で「最近治安が徐々に悪化しており、在留邦人も被害者となる事件が時折発生」と明言していて、「比較的治安の良い国」という形容詞は過去形になっています。2022年の犯罪件数は54,552件で前年比+27%、人口1,000人当たりに直すと日本の約17倍。スリと窃盗で犯罪全体の4分の1以上を占めます。
Travel Alert 01
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危険レベル
外務省の危険情報は2026年5月時点で全土に発出なし。感染症危険情報もスポット情報もなし。広域情報としては中東情勢・特殊詐欺・違法薬物(大麻等)の密輸・国際ロマンス詐欺など世界共通の注意喚起が継続中で、ルクセンブルクに固有の渡航中止・退避レベル指定は出ていません。
ただし「危険情報なし=安全」ではありません。在ルクセンブルク大使館は窃盗・空き巣・強盗・詐欺の各カテゴリで邦人被害事例を毎年積み上げていて、2022〜2023年だけで5件の具体事例を公開しています。
犯罪の全体像 --- 件数は日本の17倍
外務省の安全対策基礎データに出ている直近の統計はこうなっています。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 2022年の犯罪件数 | 54,552件(前年比+27%) |
| うち窃盗(スリ・置き引き等) | 16,452件(全犯罪の4分の1以上) |
| 空き巣 | 2,259件(2021)→ 2,958件(2022) |
| 強盗 | 505件(2021)→ 591件(2022) |
| 詐欺 | 2,299件(2021)→ 4,689件(2022、+104%) |
| 殺人 | 3件(2021)→ 9件(2022) |
| 麻薬関連 | 3,500件以上 |
詐欺は1年で倍増、殺人は3倍。人口1,000人当たりの犯罪件数は日本の約17倍と外務省が明記しています。
ルクセンブルク中央駅周辺では治安悪化に対するデモが発生するなどしており、在留邦人の方からも十数年前に比べて体感治安は確実に悪くなったという不安の声が聞こえています。
外務省の一文。地元住民が「悪化した」とデモを起こすレベルなので、観光客の感覚との温度差は大きい国です。
強盗の主役は25歳以下の若者
外務省の基礎データには、もうひとつ気になる特徴が書かれています。
強盗は、505件から591件に増加していますが、特徴として、凶器を使用した強盗は減少しており、また、25歳以下の若者が強盗犯人の大きな比率を占めています。
凶器なしの「殴る蹴るのストリート強盗」型が中心。実際、2023年の邦人被害でも夜行バス停で「スマホを貸して」と話しかけられた直後に殴る蹴るの暴行を受けてショルダーバッグとスマホを盗まれたという事例があります。後述するルクセンブルク市の睡眠強盗・暴行強盗で詳しく解説します。
Travel Alert 02
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あなたは知っていますか?
中央駅・ボンヌボア地区が国内最悪
大使館「安全の手引き」が明確に名指ししている危険地区はひとつです。
ルクセンブルク市内ボンヌボア(Bonnevoie)にあるルクセンブルク駅周辺の地区は、麻薬の密売人等が逮捕される麻薬関連事件のほか暴力事件や窃盗事件が発生するなど国内で最も治安の悪い地区となっています。夜間はもちろんのこと、日中であっても通行には充分な注意が必要です。
中央駅(Gare de Luxembourg)はTGV・ICEが発着する国際列車のハブで、ベルギー・フランス・ドイツからの陸路入国の玄関口。観光客が必ず通るのに国内で最も治安が悪い地区、というのがこの国の構造です。
外務省の基礎データもさらに具体的に書いています。
ルクセンブルク中央駅周辺には、観光客以外にも国外からの流入者も多く、麻薬密売や売春行為が社会問題化しているほか、飲食後に法外な代金を請求する飲食店(いわゆる「ぼったくりバー」の類)も存在します。また、特に夜間は、凶器を用いた強盗も散発しています。
中央駅周辺は宿が多くて便利だけど、夜遅く着く便で予約するなら駅から徒歩圏外、できれば旧市街側のホテルを選んだほうが安全です。
スリの定番ポジション --- 中央駅から市中心の公園・樹木周辺
スリ・ひったくりの多発エリアもピンポイントで書かれています。
スリ、ひったくり等の盗難事件が最も多く発生しているのは、ルクセンブルク中央駅からルクセンブルク市中心にかけての地域です。特にひったくり事件は、同地域に点在する樹木で囲まれた公園内で発生する傾向にあります。
中央駅から旧市街に向かう道沿い、ペトリュス公園・市民公園のような緑地で「死角」ができる場所が要注意。観光地のスリの全パターンはルクセンブルク市のスリ・置き引き対策で詳しく整理しています。
違法薬物 --- 駅周辺で密売人が公然と徘徊
ルクセンブルクは麻薬関連犯罪が年間3,000件超で、外務省が異例の警告を出している国です。
ルクセンブルク駅周辺では、麻薬密売人とおぼしき人物が徘徊しているので、絶対に関わらないようにしてください。
麻薬の使用、所持、販売は違法であり、違反者には厳罰が科せられます。麻薬は社会問題化しており、空港・駅・列車内では、警察当局による厳しい検査や取締りが行われています。
薬物の取り締まりは厳格で、空港・駅・列車での荷物検査が日常的に行われています。「隣のオランダで合法だから」というノリで持ち込もうとすると逮捕案件です。詳しくはルクセンブルク市の薬物トラブルへ。
テロ脅威度はレベル2維持 --- 過去にテロ計画あり
テロ・誘拐情勢(更新2025年2月20日)によると、ルクセンブルクの脅威評価は4段階の下から2番目(レベル2)を維持。
2024年3月22日のモスクワ郊外のコンサートホール襲撃テロ事件を受け、国内テロ対策調整グループ(GTC)が会合を開き、ルクセンブルクへの脅威評価を行った結果、具体的な脅威はないとして、4段階の下から2番目であるレベル2を維持する旨発表しました。
「テロ認定された襲撃事件は発生していない」一方で、過去にはこんな動きがあります。
- 2018年:イスラム過激思想のプロパガンダ活動をしていた男を治安当局が逮捕
- 2020年2月:海外の情報機関から情報提供を受け、爆発物製造材料をネット購入した男を逮捕
- 2023年4月:テロ組織のメンバーを名乗る者に資金を送金した容疑で4人の自宅を捜査
- 2023年中:ジハード主義者5人が逮捕。シリア北部のIS関係者への送金も確認
ルクセンブルクには欧州司法裁判所などEU関係機関があり、注目を集めやすい標的です。フランス・ベルギー・ドイツなど近隣国は被害者複数のテロ事件が起きていて、テロは陸続きの欧州で発生する確率がゼロにはなりません。
Travel Alert 03
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シェンゲン圏入国 --- 経由ドイツでの拒否事例に注意
ルクセンブルクはシェンゲン協定加盟27か国の1つ。短期滞在は無査証で90日間まで可能です。
シェンゲン領域内において査証を必要としない短期滞在については、「あらゆる180日の期間内で最大90日間を超えない」範囲でのみ認めると規定されています。
注意したいのがドイツ経由でのトランジット。外務省が事例を明記しています。
ドイツ以外のシェンゲン領域国に長期滞在を目的として渡航しようとした日本人が、経由地であるドイツで入国審査を受ける際に、ドイツの入国管理当局から(ア)最終滞在予定国の有効な滞在許可証、(イ)ドイツ滞在法第4条のカテゴリーD査証(ナショナル・ビザ)、または(ウ)同D査証に相当する滞在予定国の長期滞在査証の提示を求められ、これを所持していないために入国を拒否される事例が発生しています。
短期観光なら問題なし。3か月超のワーホリ・留学・赴任予定者は、ドイツ経由便を選ぶときに長期査証を必ず携行してください。
交通ルール --- 飲酒運転と冬タイヤ義務
ルクセンブルクは右側通行・左ハンドル。市内50km/h、郊外70〜90km/h、高速130km/h(雨天110km/h)が法定速度です。注意したい違反と反則金は次のとおり。
| 違反内容 | 反則金 | 違反点数 |
|---|---|---|
| 飲酒運転(呼気0.25mg/l以上0.35mg/l未満) | 145ユーロ | 2点 |
| 飲酒運転(0.35mg/l以上) | 裁判による罰金 | 4〜6点 |
| スピード違反(市街地15km/h未満超過) | 49ユーロ | なし |
| スピード違反(市街地25km/h以上超過) | 裁判出頭・免許一時没収 | 4点 |
| 駐車違反(歩道・身障者用等) | 49〜74ユーロ | --- |
| 運転中の携帯電話使用 | 74ユーロ | 2点 |
| 冬季の冬タイヤ未装着 | 74ユーロ | --- |
| 著しく摩耗したタイヤ | 145ユーロ | 2点 |
特殊なのが冬タイヤ義務化。雪・道路凍結時に夏タイヤで走ると罰金74ユーロ。レンタカーで冬季に入る場合は契約時に冬タイヤ装着車を指定してください。日本の運転免許で運転できるのは入国後最大1年間で、国際運転免許の延長は認められません。
医療事情 --- 完全予約制で待ち時間長い
ルクセンブルクは外務省の「世界の医療事情」専用ページが廃止されている国。代わりに大使館「医療機関案内」PDFが情報源です。
当国の病院における診療は、基本的に「予約制」となっています。医師の診察や治療を希望する場合には、まずかかりつけの医院や最寄りの病院に電話の上、受診の申し入れを行うことをお勧めします。
病院では患者の重篤度により診察順位を決めるため、場合によってはかなりの時間待たされることもあるようです。
夜間・休日は「メゾン・メディカル」(Maison Médicale)と呼ばれる夜間診療所がルクセンブルク市・ベルヴァル・エテルブリュックの3か所にあります。診療時間は平日20:00〜24:00、休日8:00〜24:00。午前0時以降はまず112番に電話して当直医からの折り返しを待つ仕組みです。重篤な急患の場合も112番に電話して救急車(有料)を呼びます。
医療費の実態 --- フランス・ドイツ事例で最高1,746万円
ルクセンブルクは保険会社の独立した支払事例ページがありません。同じシェンゲン圏で医療制度・物価が近いフランス・ドイツの事例から実態を見てみると、こうなります。
| 内容 | 入院日数 | 金額 |
|---|---|---|
| フランス:バス段差で転倒・大腿骨頚部骨折、医師看護師付添い医療搬送 | 17日 | 1,746万円 |
| フランス:腹膜炎・敗血症性ショック、医師付添い医療搬送 | 32日 | 1,610万円 |
| フランス:急性心筋梗塞、医師看護師付添い医療搬送 | 22日 | 854万円 |
| フランス:ホテルでふらつき脳内出血、看護師付添い医療搬送 | 14日 | 804万円 |
| フランス:脳内出血、看護師付添い医療搬送(ソニー損保) | 13日 | 717万円 |
| フランス:美術館で転倒・大腿骨転子部骨折 | 20日 | 707万円 |
| ドイツ:ホテル浴室で橈骨神経・橈骨動脈断裂 | 10日 | 639万円 |
| ドイツ:発熱・腹痛で受診、憩室炎 | 17日 | 540万円 |
| ドイツ:体調不良後に倒れ脳腫瘍 | 13日 | 388万円 |
最高額の1,746万円はバスの段差で転倒しただけ。クレジットカード付帯保険の治療救援費上限(300万〜500万円)では1件目でショートします。海外旅行保険は治療救援費1,000万円以上をベースに考えてください。詳しくはヨーロッパの海外旅行保険ガイドへ。
Travel Alert 04
知らずに大損している海外ATMの罠
DCCって知ってますか?
安全対策まとめ --- 出発前にやっておくこと
- 中央駅・ボンヌボア地区は日中でも警戒。深夜便で着く場合は駅徒歩圏外の宿を選ぶ
- 「スマホを貸して」と話しかけられたら無視して離れる。2023年の暴行強盗の手口
- ATMは銀行店舗内のものを使う。路上ATMは暗証番号を盗み見されやすい
- 駅周辺で「徘徊している人物」と関わらない。麻薬密売人の可能性
- 冬季のレンタカーは冬タイヤ車を指定。違反すると74ユーロ罰金
- 海外旅行保険は治療救援費1,000万円以上。フランス・ドイツの近隣事例で1,746万円のケースあり
通信手段の確保
ルクセンブルク市でもエヒテルナハやヴィアンデン城のような郊外でも、スマホが使えないと地図も翻訳も緊急通報もできません。空港でルクセンブルク現地SIMを買うか、出発前にeSIMを準備しておくのが楽。選び方は海外eSIM比較を参照。
緊急時の連絡先
| 機関 | 電話番号 |
|---|---|
| 警察 | 113 |
| 救急・消防(休日の担当医・担当薬局) | 112 |
| 在ルクセンブルク日本国大使館 | +352-46-41-51-1 |
| 大使館領事メール | consulate.embjapan@lx.mofa.go.jp |
| 大使館所在地 | 62, Avenue de la Faïencerie, L-1510 Luxembourg |
夜間・休日の大使館緊急連絡は代表番号にかけると当番電話番号がアナウンスされます。
緊急時のフランス語フレーズも覚えておくと安心です。
| 日本語 | フランス語 |
|---|---|
| 助けて! | Au secours!(オー・スクゥール) |
| 泥棒! | Au voleur!(オー・ヴォルール) |
ルクセンブルク政府は危機管理アプリ「GouvAlert」を提供していて、洪水・大雪などの警報がスマホに直接届きます。在留届を提出する3か月超滞在者だけでなく、短期旅行者もたびレジに登録しておくと、大使館からの緊急情報が日本語メールで受け取れます。
Travel Alert 05
空港であなたを待ちうける5つの罠
準備はできていますか?
海外旅行保険の備え
ルクセンブルクは独立した保険支払事例こそないものの、隣国フランスでは段差転倒だけで1,746万円、ドイツでも橈骨動脈断裂で639万円という事例が複数あります。観光客は予約制の医療システムに不慣れで、結果的に救急車(112番、有料)を呼ぶケースが増えがち。クレジットカード付帯保険の治療・救援費用上限では全く足りません。出発前に必ず補償内容を確認しましょう。詳しくはヨーロッパの海外旅行保険ガイドへ。