飛行機の遅延・欠航で何が返ってくるか|EU261(250/400/600EUR)・米DOT・モントリオール条約の使い分け
最終更新: 2026-05-07
空港の電光掲示板が「Delayed」から「Cancelled」に変わった瞬間、頭に浮かぶのは「これ、いくら戻ってくるの?」だと思います。結論から言うと、戻ってくる金額は出発した国と航空会社の国籍でガラッと変わります。ざっくりはこの3パターンで覚えておくと混乱しません。
- ヨーロッパから出る便、またはヨーロッパの航空会社でヨーロッパに戻る便 → 最大600ユーロ(約9.6万円)の定額補償が出る可能性あり
- アメリカ発着の便 → 法律で決まった遅延補償は基本的にない。航空会社のサービス次第
- 日本発着の国際線 → 国際条約で最大127万円の枠はあるが、「実際にかかった損害額」を自分で証明する必要があり自動支給ではない
このページは、ヨーロッパの規則(通称「EU261」)、アメリカ運輸省の案内、国土交通省の条約解説、国民生活センターの相談事例を突き合わせて、「自分の便ならどこに請求すればいくら出るか」を分かる順に並べました。「自分でキャンセルした分」の払戻ルールは別物なので、各社の運賃条件は航空会社11社のキャンセル・払戻マップ、荷物だけ出てこないケースはロストバゲージ対処ガイド を参照してください。
なお、法律ベースの補償は申請から支払までに時間がかかるので、「今日の夜のホテル代と食事代を埋める現金」は別軸で用意しておくのが現実的です。クレジットカードの利用付帯保険のうち、セゾンゴールド・アメリカン・エキスプレス・カードは寄託手荷物遅延10万円・乗継遅延3万円・出発遅延3万円まで補償される利用付帯10項目補償が付いていて、遅延・欠航で発生する追加出費を直接的にカバーできる構成になっています。
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ヨーロッパの定額補償「EU261」— 最大600ユーロの仕組み
ヨーロッパには航空旅客を守るための強い規則があって、正式名称は長いですが「EU261」という通称で呼ばれています。ヨーロッパから出発する便、または他国からヨーロッパに着く便(ヨーロッパ籍の航空会社運航)で、到着が3時間以上遅れたり欠航になった場合に、航空会社が一律で補償金を払うよう決められている制度です。
対象になる便の見分け方は2つの軸で判定します。
- ヨーロッパの空港から出発する便 → 航空会社の国籍に関係なく全部対象
- ヨーロッパ以外から出発してヨーロッパに着く便 → 航空会社がヨーロッパ籍の場合のみ対象
日本人の旅程で頻出するパターンに当てはめると:
| 便の例 | EU261の対象? |
|---|---|
| パリ → 羽田(JAL運航) | 対象(出発地がヨーロッパ) |
| パリ → 羽田(エールフランス運航) | 対象(出発地がヨーロッパ) |
| 羽田 → パリ(エールフランス運航) | 対象(航空会社がヨーロッパ籍) |
| 羽田 → パリ(JAL運航) | 対象外(出発も航空会社もヨーロッパじゃない) |
| ロンドン → ニューヨーク(英国航空) | 対象外(英国はEU離脱後。独自の英国版規則あり) |
補償額は飛行距離で3段階に分かれます。
| 距離 | もらえる金額 |
|---|---|
| 1,500 km以下 | 250ユーロ(約4万円) |
| ヨーロッパ域内で1,500km超 / その他の1,500〜3,500km | 400ユーロ(約6.4万円) |
| それ以外(長距離国際線) | 600ユーロ(約9.6万円) |
日本⇔ヨーロッパ直行便は全部600ユーロ枠です。支払いは現金・銀行振込が原則で、「代わりに旅行バウチャーでどう?」と持ち出された場合は乗客が署名で同意しない限り強制されません。
どういう状況で補償が出るのか
- 出発時刻が大幅に遅れ、到着が3時間以上遅れた:欠航と同じ扱いで満額補償の対象
- 欠航になった:代替便が出発/到着の時刻をあまりずらさず提供されれば減額・免除あり
- 2時間以上遅れ(短距離便):金銭補償はなくても、食事・飲み物・電話を航空会社が無料提供する義務
- 5時間以上遅れ:乗らずに航空券全額払い戻しを選ぶ権利が発生
航空会社が「補償しない」と言ってくるパターン
欧州の規則には「航空会社がどう頑張っても回避できなかった特別な事情」なら補償を免除するという逃げ道があります。例としては、政情不安、運航と両立しない悪天候、セキュリティリスク、思わぬ安全上の欠陥、ストライキ。
ただし「防げなかった」ことを立証するのは航空会社側の責任なので、「天候だから」で終わらせようとしてきたときも、「同じ時間帯に他社便は飛んでいた」「機材は着陸できたはずの設備を持っていた」などで押し返せる余地があります。ちなみにキャンセルの事前通知が2週間以上前なら最初から補償対象外です。
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アメリカ発着は「法律で決まった遅延補償がない」
アメリカ行きの便は「先進国だし手厚く補償されるんでしょ」と思いきや、実はアメリカには連邦法ベースの遅延・欠航補償がありません。アメリカ運輸省(DOT)の消費者案内でも「国内線の遅延・欠航について航空会社が補償する法的義務はない」とハッキリ書かれています。法律で定額補償が決まっているのは、座席売りすぎで降ろされたオーバーブッキングのときだけです。
ただ、アメリカには乗客を守る3つのルールはあります。
- 滑走路の駐機は3時間まで(国内線)。機体の中に3時間以上閉じ込めてはいけない決まりで、違反すると航空会社に高額な罰金が課せられます。
- 駐機開始から2時間以内に食事と水を提供。国内線・国際線とも航空会社の義務。
- 国際線(日本⇔アメリカ)は国際条約で実費請求できる。後述のモントリオール条約に基づいて追加の宿泊代・代替便代などを航空会社にクレームできる、ただし自分で書類をそろえて請求が必要。
つまりアメリカ発着の遅延・欠航は、「法律で自動的にお金が出る」ではなく「航空会社のサービス次第 or 海外旅行保険の特約で埋める」が現実解。保険の航空機遅延費用特約は6時間以上の遅延・欠航・オーバーブッキングで1〜2万円が出るので、アメリカ行きほど保険の価値が高まります。
カード付帯の利用付帯保険で先回りしておくのも一つの手です。セゾンゴールドAMEXの利用付帯10項目には寄託手荷物遅延10万円・出発遅延3万円・乗継遅延3万円まで含まれていて、米国発着で法律補償がないケースの補完になります。
日本発着の国際線は「モントリオール条約」が土台
日本発着の国際線で遅延・欠航したときに効くのは、モントリオール条約という国際ルールです。国土交通省が2024年12月に改定を公表し、2024年12月28日から発効した最新値では、旅客の延着は1人あたり最大約127万円(6,303 SDRという国際通貨単位で、1 SDR≒201円)まで航空会社に請求できます。
| 項目 | 1人あたりの上限 |
|---|---|
| 旅客の死亡・傷害 | 約3,053万円(151,880 SDR) |
| 手荷物(延着・破損・紛失) | 約31万円(1,519 SDR) |
| 旅客の遅延 | 約127万円(6,303 SDR) |
ただし、ヨーロッパの定額補償とは根本的に性格が違うのでここは誤解しないでください。
- 「上限」であって自動支給ではない。自分で領収書を集めて、代替宿泊費・食事代・乗り継ぎキャンセル代など実際に発生した損害を金額で証明する必要がある
- 航空会社が「我々は合理的にやれる対応を全部やった」と立証できれば支払免除される逃げ道があり、天候・管制混乱・感染症対応などで免責される余地が広い
- 「精神的苦痛料」のような主観項目は原則出ない
申請は航空会社のクレームフォーム経由です。KLMの日本語ページが比較的整理されているので、書式の参考になります。
国民生活センターの相談事例 — 返金交渉がこじれる典型パターン
国民生活センターに寄せられた2022年度の旅行関連相談のうち、4,488件がネット予約関連(全体の51.9%)でした。実例を見ると問題の中身が見えてきます。
予約した航空券が欠航となったが全額返金されない。旅行予約サイトと航空会社のそれぞれに問い合わせたが対応されない。
返金を求めるため、旅行予約サイトにメールしても「24時間以内に返答する」という返信しか来ない。
一番多いのは、予約サイト(エクスペディアやBooking.comなど)と航空会社のどちらに連絡すればいいか分からずに、両方からたらい回しにされるパターン。国民生活センターのアドバイスも「予約する前にキャンセル条件を確認すること」と、入り口で防ぐことに重点を置いています。自衛策としては予約時に「返金窓口はどちらか」を確認してスクショを残しておくのが一番効きます。海外の予約サイトが相手ならば 越境消費者センター(CCJ) が相談窓口です。
日本の航空会社の定時運航率
日本のJAL・ANA・ソラシド・スターフライヤー・AIRDO・スカイマークなどの大手は、定時運航率・欠航率を四半期単位で国交省が公表しています。数値は国土交通省ページからExcelとPDFで落とす形式で、令和4年度版 が最新。出発前に「自分の便の過去実績はどんな感じか」を調べたいときに使えます。日本発着のキャリアは世界的に見ても定時運航率が高い方です。
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請求するときの実際の手順
ヨーロッパのEU261で補償を請求するときの基本的な流れはこうです。
- 航空会社の補償請求フォームに入力する(JAL・ANA・エールフランス・ルフトハンザ・英国航空など各社が専用ページを用意)
- 必要書類をそろえる:搭乗券(紙の半券かスマホスクショ)、e-ticketの控え、遅延・欠航を示す証明書、代替便の控え、追加出費の領収書
- 拒否されたら各加盟国の執行機関に苦情申立。フランスなら民間航空局、ドイツなら連邦航空局など、国ごとに窓口が決まっている
- それと並行して 欧州消費者センター(ECC-Net) にも情報共有
- それでも解決しない場合は現地の少額裁判所(多くの国では弁護士なしで提訴できる)
時効はEU261の条文に書かれておらず、各加盟国の法律次第(ドイツは3年、オランダは2年など)。「覚えているうちに動く」のが実務的に正解です。
モントリオール条約で日本発着の国際線をクレームする場合は、日系キャリアのクレームフォームに記入して送るのが基本の流れ。条約の数値や「何のための補償か」の説明は、KLMの日本語ページがきれいに整理されているので参考になります。
保険の遅延特約は「法律が効かないときの現金」として効く
ここまで見た通り、どの法律も「書類審査と時間」がかかります。アメリカ発着で法律が効かないケース、モントリオール条約で実損立証が難しいケース、「請求が通ってもお金が振り込まれるのは数ヶ月先」の間に必要な宿泊代・食事代──これらを今日の夜に埋めるのが海外旅行保険の航空機遅延費用特約です。
発動条件は「搭乗予定だった飛行機が6時間以上遅れる/欠航する/運休する/オーバーブッキングになり、6時間以内に代わりの便に乗れない」こと。10日間の海外旅行での追加料金は6社比較でこのくらい。
| 会社 | タイプ | 10日間の追加料金 |
|---|---|---|
| 損保ジャパン off! | 実損2万円 | 50〜70円 |
| ソニー損保 | 定額1万円 | 200円 |
| ジェイアイ | 実損型 | 250円 |
| SBI損保 | 定額1万円 | 260円 |
| au損保 | 定額1万円 | 260円 |
| たびほ | 定額1万円 | 260円 |
| たびほプライム | 実損2万円 | 260円 |
法律の補償はあとから時間差で効く、保険の特約は今日の夜に効く、というすみ分けです。各社の条件比較と選び方は 航空機遅延費用特約 6社比較 にまとめています。
旅行ごとに保険を契約する手間を省きたい場合、補償の土台をクレジットカードの利用付帯で組んでおく選択肢もあります。エポスカード(年会費無料)で傷害治療200万円・疾病治療270万円の基盤を作り、セゾンゴールドAMEX(初年度無料・2年目以降11,000円)で寄託手荷物遅延・出発遅延・乗継遅延の穴を埋めると、保険会社の特約に追加加入しなくても遅延・欠航で出る追加出費を回収できる構造になります。
EPOS CARD × HAPITAS
エポスカードを発行して11,000円相当
ハピタス経由でエポスカードを申し込むと、現金等に交換できる11,000円相当のポイントが付与されます(時期により変動)。年会費は永年無料。
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まとめ — 予約時点で3つメモしておく
どの法律が効くかは便ごとに違うので、予約が済んだ段階で以下の3つをメモしておくと、当日の判断が速くなります。
- 出発空港・到着空港がどの国か(ヨーロッパ/アメリカ/その他)
- 運航している航空会社の国籍(ヨーロッパ籍かどうかでEU261の対象が決まる)
- 海外旅行保険の遅延特約を付けたか(付けていれば6時間超えで現金1〜2万円)
空港で「Cancelled」の表示が出た瞬間にやる動きも機械的に3つだけ。航空会社の補償請求ページのURLをスクショ、レシートを全部とっておく、代替便の控えを保存。この3点を押さえていれば、後日の請求でもめることがかなり減ります。
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- ロストバゲージ対処ガイド — 荷物が出てこないときの21日ルールと1,519 SDR枠
- 航空機遅延費用特約 6社比較 — 6時間条件の保険特約を各社比較
- 到着日にやることチェックリスト — 空港を出てから宿に着くまでの実務手順
- 海外旅行保険の選び方 — 遅延特約込みの補償を組み立てる
よくある質問
EU261は自分の便にも使えますか?
対象は「(a) EU加盟国の空港を出発する便(全航空会社)」「(b) 第三国発でEU加盟国空港着の便(EU加盟国認可の航空会社=Community carrierが運航する場合)」の2パターン(Regulation (EC) No 261/2004 Art.3)。成田→パリをエールフランス(=Community carrier)で飛ぶ帰り便は(a)で対象、パリ→成田を日系航空会社で飛ぶ復路は出発地がEUなので(a)で対象、成田→ロンドンを英国籍キャリアで飛ぶ場合はEU加盟国認可ではないため原則対象外、ロンドン→NYを英国籍キャリアで飛ぶ場合もEU域内便ではないため対象外、と条文通りに読みます。
米国発着の便で遅延・欠航した場合は?
米運輸省(DOT)の Fly-Rights が明言しています。"Contrary to popular belief, for domestic itineraries airlines are not required to compensate passengers whose flights are delayed or canceled"(米国国内線では、遅延・欠航の乗客に対して航空会社が補償する法的義務はない)。各社のポリシー次第で食事や宿泊が出る場合はありますが、連邦法ベースの自動補償はありません。唯一の連邦規制は「tarmac delay」ルールで、国内線は滑走路上の駐機が3時間を超えてはならず、2時間経過後には食事・水の提供義務が発生します。補償が欲しければ保険です。
日本発の便ならモントリオール条約の127万円がもらえる?
モントリオール条約の旅客延着責任限度額は6,303 SDR(約127万円、国土交通省 2024/12/28発効)ですが、これは「上限」であって自動支給ではありません。DOT Fly-Rightsの説明通り、"passengers may be able to recover reimbursement under Article 19 of the Montreal Convention for expenses resulting from a delayed or canceled flight by filing a claim with the airline"——航空会社にクレームを出して、実損(追加宿泊費・食事代・乗り継ぎ費用等)の立証が必要。さらに「合理的な措置を全て取ったことを立証できれば免責」される逃げ道もあります。EU261のような定額一律とは別モノと考えてください。
extraordinary circumstances(特別な事情)って何ですか?
EU261 Recital (14) が例示しています。"political instability, meteorological conditions incompatible with the operation of the flight concerned, security risks, unexpected flight safety shortcomings and strikes that affect the operation of an operating air carrier"——政情不安、運航と両立しない気象、セキュリティリスク、予期せぬ安全上の欠陥、航空会社の運航に影響するストライキ。これらに該当すれば補償義務が免除されます。「航空管制の決定が当該機の長時間遅延・夜間遅延・欠航を招いた場合」も特別な事情に含まれる(Recital 15)。悪天候・ATCによる大規模混乱はここで落ちやすい、という感覚で読んでください。
請求の手順と時効は?
EU261は対象航空会社にまず書面(フォーム/メール)で請求、拒否された場合は各加盟国の執行機関(Art.16で各国が指定)や欧州消費者センター(ECC-Net)に苦情申立、というのが条文の枠組みです。時効は各国法に委ねられていて条文からは読めないので、早めに動くのが原則。必要書類は搭乗券・e-ticket控え・遅延や欠航を示す証明書・代替便の控え・追加出費の領収書。モントリオール条約による延着賠償請求は、航空会社が「合理的な措置を全て取った」ことを立証できない場合に実損ベースで支払われます。国民生活センターの相談事例では「予約した航空券が欠航となったが全額返金されない」ケースも報告されており、航空会社とOTA(予約サイト)のどちらに言えばいいか分からず動けなくなるパターンが多い点も要注意。
出典・参考
- Regulation (EC) No 261/2004(EU261条文・250/400/600 EUR、距離閾値、遅延閾値、extraordinary circumstances)
- 国土交通省「モントリオール条約に係る責任限度額の改正について」(2024/12/9発表・2024/12/28発効・旅客延着6,303 SDR)
- DOT Fly Rights(米国の遅延・欠航対応・tarmac 3時間ルール)
- DOT Bumping and Oversales(搭乗拒否の連邦ルール)
- 国民生活センター「インターネットで予約したホテルや航空券のトラブル」(2023/9/20・2022年度4,488件)
- 国土交通省 特定本邦航空運送事業者の定時運航率・輸送実績(令和4年度)
- i保険 航空機遅延費用オプション料金表(6時間以上遅延/欠航の特約比較)
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