気をそらし型スリの手口|世界30都市の実例と回避法【2026】
最終更新: 2026-05-26
「これ、落としましたよ」。足元を指されてつい視線を下げた数秒で、リュックのファスナーが開いて財布が消える。これが気をそらし型スリ---液体を使わず、会話や小銭、写真撮影、地図で注意を引いている間に共犯がバッグから金品を抜く分業型の手口です。外務省と各国大使館のソースを横断すると、30都市以上から具体事例が出てきます。使う「素材」は地域ごとにまったく違うけれど、構造は世界共通。声をかけてくる人=囮、本当の犯人は別にいる。この1点を覚えておくだけで、被害確率は大きく下がります。
なお、服にケチャップや鳥のフンをかけて「汚れてますよ」と近づく手口はケチャップ強盗(液体汚し系スリ)として別記事にまとめています。本記事は液体を使わない気そらしパターンだけを扱います。
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共通の構造 --- 必ず複数犯の分業
気をそらし型スリは世界のどこで遭っても、この役割分担で動きます。
- 気を引く役(囮): 道を尋ねる、小銭を落とす、写真を頼む、地図を広げる、品物を見せる。被害者の視線と意識をこちらに集中させる
- 抜く役(実行犯): 囮に注意が向いている隙に、背後や死角からバッグのファスナーを開ける、ポケットに手を入れる、足元の荷物を持ち去る
- 運び役(いる場合): 抜いた財布を即座に受け取って現場から離脱。被害者が気づいて振り返っても盗品はもう別の人間の手にある
被害者は「声をかけてきた人」に意識が向くため、本当の犯行に気づけない。これが分業の威力です。
コインばらまき --- マレーシア警察が命名した「コイン・ドロップ盗」
小銭をわざと落として「拾ってあげるフリ」で被害者の死角を作る手口。世界で最も広く確認されているバリエーションです。
クアラルンプール --- バスと電車内のグループ全員がグル
混み合う路線バスや電車の中で、誰かがわざと小銭を落とす。周囲の数人が「拾ってあげる振り」をしながらしゃがみこみ、その隙に別のメンバーが乗客のバッグを開けて金品を抜き取る。マレーシア警察が「コイン・ドロップ盗」と呼んでいる手口で、グループ全員がグルになっている。
マレーシア警察が正式に名前をつけたほど定番の手口。ポイントは「拾ってあげる数人」も全員グルということ。善意に見える周囲の行動が、実は犯行の一部。クアラルンプールのスリに詳しい手口と対策をまとめています。
リスボン --- GNRが「種まき手法」と警告
ポルトガルの共和国警備庁(GNR)は、ショッピングセンター駐車場・ガソリンスタンド・ATM周辺で小銭や鍵をわざと落とし、注意を引きつけている間に車内から金品を盗む手口を「種まき手法」と名付けて注意喚起しています。犯人グループは事前に単独で行動している人物を標的に選び、複数名で役割分担しながら犯行に及び、車で逃走する。この手口はスペインのマドリードなどでも発生していると明記されています。
空港やホテルでも「話しかけたり、小銭や持ち物を目の前でばらまいたりして気を引いた隙に、足下や椅子に置いておいたバッグを盗まれる」被害が出ています。リスボンのスリで全容を。
シンガポール --- 前後挟み撃ちの2人組
シンガポールでは「前にいる1人がコインやハンカチを目の前で落として注意をそらし、後ろにいるもう1人が金品をスリ取る」前後挟み撃ち型。「落としましたよ」と親切に声をかけてくるので、つい気を取られてしまうのがポイント。治安のよいシンガポールだからこそ油断する。シンガポールのスリで対策を確認しておこう。
その他のコインばらまき都市
- パナマシティ: 路上で小銭をばらまき、注意をそらして鞄を盗む事案が発生(パナマシティのスリ)
- サンパウロ: ファストフード店でコインを落として拾うのを手伝わせている間にカバンをすり替える(サンパウロのスリ)
- コペンハーゲン: 急行列車内で「小銭をばらまいて拾ってと頼んでくる」。屈んでいる間に網棚の荷物が消える(コペンハーゲンのスリ)
- ダブリン: 路上にコインをばらまいたり、瓶を落として割ったりして注意を引きつける(ダブリンのスリ)
- ブラチスラバ: 子供グループが地面にキャンディなどをばらまいて注意をそらし、背後の仲間が抜く(ブラチスラバのスリ)
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「写真を撮って」--- 観光地で最もバレにくい口実
カメラを構えている間は荷物への意識がゼロになる。その瞬間を狙うのがこの型。欧州の観光地で頻出し、ぼったくりバーや偽警官の「入口」に使われる地域もあります。
ローマ --- 「撮ってあげる」でポーチを抜かれる
トレビの泉やスペイン広場で「写真を撮ってあげる」と数人の女性が声をかけ、撮影してもらっている間にバッグからパスポート等が入ったポーチを抜き取られた事例が大使館レポートに載っています。ローマでは子供の集団が新聞紙を広げて近寄り気をそらすパターンも定番。ローマのスリで季節ごとの傾向も確認を。
ビリニュス --- 十字架の丘で男1女2のグループ
リトアニアの観光名所シャウレイの十字架の丘で、男1人・女2人のグループに声をかけられ写真を撮る際、鞄内から現金を抜き取られた事例が大使館に報告されています。「一緒に撮りませんか」と友好的に声をかけてくるのがこの型の怖さ。観光地で写真を撮る時は、バッグを前に抱えるか、連れがいれば1人が荷物を見守る体制を。ビリニュスのスリにて詳細を。
ブダペスト --- 写真撮影からぼったくりバーに発展
ブダペストでは若い女性2人組が「写真を撮ってほしい」と声をかけ、そのあと「いい店を知っているから一緒にどう?」と誘う。行き先はぼったくりバーで、法外な飲食代を請求される。写真撮影が詐欺の「導入部」に使われるパターン。ブダペストの詐欺で全容を。
ロンドン --- 写真・道尋ねが偽警官の入口になる
ロンドンでは人通りの少ない場所で旅行者を装った仲間が「写真を撮って」「駅への行き方を教えて」と話しかけてくる。会話中に私服の「警察官」が現れて麻薬捜査を口実に財布・カードの提示を要求する合成型。偽警官の手口は偽警官の手口で詳しく解説しています。ロンドンの詐欺も参考に。
その他の写真型
- ソフィア: 若い女性のスリグループが「写真を撮ってあげる」と善意のフリで接触(ソフィアのスリ)
- ルクセンブルク: アドルフ橋の展望ポイントで写真を撮る瞬間にリュックのファスナーを開けられる(ルクセンブルクのスリ)
道尋ね・地図で視界を覆う「目隠しスリ」
地図や新聞紙を顔の前に広げて視界を遮り、その間に背後の共犯がポケットやバッグに手を伸ばす。在スペイン大使館が「目隠しスリ」と名付けたこの手口は、南欧・中欧で鉄板です。
マドリード --- 大使館命名の「目隠しスリ」
観光客に道を聞くふりをして大きな地図を広げ、顔の前に差し出す。地図に気を取られている間に、別の人物が背後からポケットやバッグに手を伸ばす。地下鉄メトロ車内では広げた新聞で同じことをやる。プラド美術館周辺やマヨール広場で多発。マドリードのスリに対策をまとめています。
バルセロナ --- 地下鉄で地図を広げて視界を覆う
バルセロナの地下鉄でも「地図を広げて視界を覆う」「小銭を落として気を引く」はチームプレーの一部。ドア付近に立っていると降車直前に荷物を掴んでホームに飛び出す「ドアスリ」と組み合わさることもあります。バルセロナのスリで路線別の注意点を。
トビリシ --- 子供が地図を見せて道案内を頼む
※実際の被害報告をもとに再構成した事例です(出典:在ジョージア日本国大使館「安全の手引き」)
子供だから油断する。でも子供こそが「気を引く役」で、別の子供が「抜く役」。大人の指示で動いている組織的な犯行です。トビリシのスリ対策はトビリシのスリで。
その他の地図・道尋ね型
- リスボン: 観光客を装った二人組が地図を広げて道を尋ね、対応している間にポケットから財布を盗む
- アテネ: 「道を教えてほしい」と巧みに気をそらしているうちに共犯者がバッグ等を盗む
- ロサンゼルス: 在LA総領事館が「被害者の注意をそらすために道や時間を尋ねる者と、その間にカバンを盗む者の連携犯行」と明記(LAのスリ)
Travel Alert 03
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落とし物詐欺と「親切な声かけ」
「落ちましたよ」と言われて反射的に足元を見る。あるいは目の前に落ちた財布に気を取られる。その心理を利用して偽警官まで絡んでくるのがこの型です。
モスクワ --- ドル紙幣入り袋を落として偽警官が因縁
クレムリン付近の道路を歩いていた際、前を歩いていた人物がドル紙幣入りのビニール袋を落としたがそのまま無視して通り過ぎたところ、同人の直ぐ後ろを歩いていたロシア人が同袋を拾い上げ落とし主に手渡した。突然警官らしき人物が現れ、邦人に対し、金を盗んだのではないかと言いがかりをつけ、財布の中身を見せるよう要求してきたので見せたが、後になって確認したら、4万円相当の現金が盗まれていた。
落とす役・拾う役・偽警官役の最低3人による連携。「無視して通り過ぎた」のに巻き込まれているのがポイントで、近くにいるだけで標的にされます。他人が落とした物には一切触らない、立ち止まらない、近寄らない。モスクワの詐欺にて偽警官対策も確認を。
カイロ --- 「落とし物を探して」「気分が悪い」で近づく
エジプトでは「落とし物を探してほしい」「気分が悪いので助けて」と声をかけ、手伝っている間にバッグから抜き取る手口が報告されています。子供の集団が囲んで話しかけてくるパターンも。助けを求められても安易に荷物を置かない、子供に囲まれたら毅然と離脱するのが鉄則。カイロのスリで詳細を。
オスロ --- 「柔道!空手!」と日本語で近づく
日本人を見かけると片言の日本語で「柔道」「空手」等と言いながら近付き技をかける真似をして気をそらせている隙にポケットから財布を抜き取って逃げる
日本人を狙い撃ちする珍しいパターン。日本語で声をかけられると「知り合い?」と一瞬止まる心理を突いてきます。ホテル朝食ではティーバッグを落として拾うのを手伝わせる間に椅子のバッグが消える事例も。オスロのスリにて。
物売り・体に押し付ける型
アフリカを中心に、物売りを装って物理的に接触してくるパターン。欧州の洗練された手口と異なり、体を掴まれるなど力づくの要素が加わります。
アディスアベバ --- トレイや木箱を体に押し付ける
マルカートやピアッサでは、複数人で被害者を挟みトレイや木箱を体に押し付けて物売りを装う。片方が腕を強く掴み、死角からポケットや鞄の中身を抜き取る。物理的に体を拘束されるため、欧州の「気づかれないうちに抜く」スリとは別次元の怖さがあります。アディスアベバのスリで市場での立ち回りを。
ダカール --- 品物1つを覗き込ませる囮
品物(指輪、腕輪、貴金属類)を一つだけ持って近付いてくる者には注意が必要です。興味を抱いて品物を覗き込んだ瞬間、後ろにいる仲間が素早くカバンやポケットの中の財布を抜き取ろうとします。また、数人で親しげに接近し話しかけて気を引いている間に、身に付けている財布や携帯電話等を別の仲間が抜き取る手口もあります。
「品物1つだけ=囮」の判定ルール。複数の商品を並べた正規の物売りとの違いはここ。指輪1つを手のひらに載せてくる人物には近づかない。ダカールのスリにて。
ハラレ --- 握手・募金・闇両替が分業スリの入口
ハラレでは複数の男性から握手を求められ応じたところ、その最中にスマートフォンを盗まれた邦人被害が出ています。募金活動・宗教講話・物売り・闇両替を持ちかけて気を引き、仲間が盗む連携手口もハラレの定番。「握手に応じない」のは失礼に感じるかもしれないが、知らない人に握手を求められたら距離を取るのが身を守る行動です。ハラレのスリで対策を。
Travel Alert 04
知らずに大損している海外ATMの罠
DCCって知ってますか?
道尋ねが強盗・偽警官・ぼったくりに発展する
気をそらし型スリは「財布を抜かれて終わり」とは限りません。一部の都市では、道案内や写真撮影が暴力的な強盗や偽警官による所持品検査、ぼったくり飲食店への誘導に発展します。
- ブカレスト・ノルド駅: 「道案内する」と声をかけられ暗がりへ誘い込まれ、殴る蹴るの暴行を受け貴重品と現金を強奪された邦人男性の事例(ブカレストのスリ)
- ウィーン・ブラチスラバ・ロンドン: 道を尋ねるサクラ役が声をかけた直後に「警察官」が現れ、麻薬捜査・偽札捜査を口実に所持品検査を要求。財布を見せたら現金が消える(ウィーンの詐欺)
- ハバナ: 親しげに道案内を装って近づいた人物にグルの飲食店に連れて行かれ、通常より高い料金を請求されたうえ複数人の男性にホテルまで押しかけられた(ハバナの詐欺)
単なるスリで終わらない地域がある。見知らぬ人の「親切」に安易に乗らないこと。偽警官の全体像は偽警官の手口で横断的に解説しています。
地域差まとめ
| 比較軸 | 欧州 | 中南米 | アフリカ |
|---|---|---|---|
| 主な道具 | 小銭・地図・新聞・写真撮影 | 小銭・コイン・ライター | トレイ・品物1つ・握手 |
| 加害者像 | 子供集団/若い女性/2人組 | 3人組グループ | 複数男性/物売り風 |
| 発生場所 | 地下鉄・観光広場・駅ホーム | バス車内・空港・路上 | 市場・路上 |
| 被害規模 | 財布の中身 | 鞄ごと持ち去り | 携帯電話・財布 |
| 発展型 | 偽警官・ぼったくりバー | 暴力的強奪 | 力づく(腕を掴む) |
Travel Alert 05
空港であなたを待ちうける5つの罠
準備はできていますか?
回避法 --- 「声をかけてきた人」に注意を向けない
気をそらし型スリの構造(囮+実行犯の分業)から導く回避法は5つ。
- 声をかけられても立ち止まらない、荷物から手を離さない --- 話しかけてくる人に意識が集中する=犯行が成立する瞬間。歩き続けるだけで犯行を中断できる
- 落とし物・小銭は拾わない --- 足元の小銭を拾う動作=視線が下がる+手が荷物から離れる。モスクワの偽警官型は近くにいるだけで巻き込まれるので「立ち止まらずに通過」が正解
- 地図・紙を差し出されたら距離を取り、身振りで対応 --- 地図を顔の前に広げられると視界が遮られる。一歩下がって自分の荷物が見える位置を確保
- 写真撮影を頼まれたらバッグを前に抱えてから応じる --- 撮影中は荷物への意識がゼロになる。バッグを体の前面に移動させてから対応する
- 足元・椅子・網棚に荷物を置かない --- ホテル朝食、空港チェックイン、列車内で「床に置いた荷物が消える」のは気そらしスリの最頻被害パターン。荷物は膝の上か、足の間に挟む
すべてに共通するのは「反射的に応じない」こと。声をかけられたら、応答する前にまず自分の荷物に手をかける。この0.5秒の習慣が、世界30都市どこでも有効な防御になります。
よくある質問
気をそらし型スリに遭ったらまず何をすればいい?
声をかけてきた相手には応じず、すぐ荷物を抱えてその場を離れてください。スリは「立ち止まらせること」で成立するので、歩き続けるだけで犯行を中断できます。被害に気づいた場合は現地の警察に届出し、パスポート盗難なら最寄りの在外公館に連絡してください。
コインばらまきスリが多い国はどこ?
外務省・大使館の情報で具体的に報告されているのは、マレーシア(警察が「コイン・ドロップ盗」と命名)、ポルトガル(GNRが「種まき手法」と命名)、シンガポール、パナマ、ブラジル、コペンハーゲン、ダブリン、ブラチスラバなど。欧州・中南米・東南アジアと幅広い地域で確認されています。
「写真撮って」と頼まれたらどう対応すべき?
撮影してあげること自体は問題ありませんが、バッグは必ず前に抱えた状態で対応してください。背中側やベンチに荷物を置いたまま応じると、共犯が背後から抜き取ります。ローマやビリニュスで実際に被害が出ています。
液体をかけるケチャップ強盗とは何が違う?
ケチャップ強盗は「液体で服を汚す→拭くフリで近づく」が起点ですが、気をそらし型スリは液体を使わず、会話・小銭・写真・地図など無害に見えるコミュニケーションで注意を引きます。構造(分業で気を引く役+抜く役)は同じですが、汚れがないため被害に気づきにくいのが特徴です。
出典・参考
- 在マレーシア日本国大使館「安全の手引き 令和7年版」
- 在ポルトガル日本国大使館「安全の手引き」2025年2月版
- 在シンガポール日本国大使館「安全の手引き」
- 在スペイン日本国大使館「安全の手引き」
- 在イタリア日本国大使館 邦人援護状況 2025年7-9月
- 在ジョージア日本国大使館「安全の手引き」
- 在ドイツ日本国大使館・4総領事館連名「安全の手引き」令和8年1月版
- 在ロシア日本国大使館 モスクワ滞在上の注意点(2024年7月)
- 在セネガル日本国大使館「安全の手引き」令和8年1月版
- 在エチオピア日本国大使館「安全の手引き」令和6年3月改訂
- 在ノルウェー日本国大使館「安全の手引き」令和7年10月版
- 在ルーマニア日本国大使館「安全の手引き 令和8年4月版」